【深掘り調査記事】お笑いファンの中心は女性?
「現場とネット」「芸人の本音」から見える意外な実態
5ちゃんねるのあるスレッドで、「お笑いファンってほとんど女だし、だから結局お笑いの中心って女じゃね?」という意見をきっかけに、活発な議論が交わされていました。これに対し、「芸人自身は男ファンのほうが大事と言っている」「ライブは女性が多いが、YouTubeの視聴者は男性が多い」といった具体的な反論も飛び出しました。
果たして、お笑い界を本当に支えているのは誰なのでしょうか。「現場(ライブ)」と「ネット(YouTube)」のファン層の違い、そして芸人たちの本音から、その複雑な実態に迫ります。
1. データで見る「現場とネット」のファン層ギャップ
「ライブや劇場は女性客が圧倒的に多い」というのは、お笑いファンの間では半ば常識として語られています。これは、アイドルの応援に近い熱量で特定の芸人を応援する女性ファンの存在や、友人同士で誘い合って参加しやすいといった文化的背景があると考えられます。
一方で、「ネット、特にYouTubeでは男性視聴者が多い」という説はどうでしょうか。株式会社ヴァリューズの調査によれば、YouTube全体の利用率は全年代で男性の方が女性を上回っており、特に高頻度での利用が目立つという。コンテンツの傾向としても、男性は「学び系」の動画を、女性は「推し活」的な要素の強いチャンネルを好む傾向が見られます。
元芸人で料理系YouTuberとしても成功した「おっくん」は、自身のチャンネルの視聴者層について「8割5分で圧倒的に男性です」と語っています。これは、料理という「学び」や「実践」の要素が強いコンテンツであることが、男性視聴者を引き付けた一因と考えられます。
このことから、5ちゃんねるのレスにあった「ライブは女性が多く、YouTubeは男性が多い」という指摘は、全体的な傾向として的を射ている可能性が高いと言えます。ライブの熱狂を支えるのが女性ファンである一方、ネットでの再生回数や話題の拡散といった面では、男性ファンが大きな影響力を持っている構図が見えてきます。
2. 芸人たちの本音:「男ファンの方が嬉しい」は本当か?
次に、「芸人は男性ファンを重視している」という説について考えます。なぜ、芸人は「男性にウケたい」と語ることが多いのでしょうか。これには、いくつかの理由が考えられます。
- 評価軸が「純粋な面白さ」になりやすい
芸人にとって、自身の笑いがルックスやキャラクター人気ではなく、純粋なネタの構成力や発想で評価されていると感じることは、大きな喜びにつながります。男性ファンは、より批評的にネタの構造や技術を評価する傾向があるため、「男性にウケる=本物」という意識を持つ芸人は少なくありません。 - ファンでいる期間が長くなりやすい
女性ファンの中には、芸人をアイドル的に消費し、熱しやすく冷めやすい層も一定数存在します。一方で男性ファンは、一度「面白い」と認めると、その芸人のスタイルを長く応援し続ける傾向があります。息の長い活動を目指す芸人にとって、こうした安定した男性ファンの存在は心強い支えとなります。 - 同性からの承認欲求
特に男性芸人にとって、同性である男性から「面白いやつだ」と認められることは、根源的な承認欲求を満たす側面があります。南海キャンディーズの山里亮太さんが、しばしばラジオで「かっこいい男になりたい」と語るように、同性からの支持は芸人としての自信やアイデンティティの確立に直結します。
これらの理由から、「女性人気はありがたいが、男性ファンが増えるとさらに嬉しい」というのが、多くの芸人が抱く本音と言えるでしょう。
3. 興行的な視点:「払うファン」と「見るファン」の価値
では、ビジネスの視点から見るとどうでしょうか。ライブや劇場に足を運ぶファンは、チケット代やグッズ代として直接的にお金を支払う、まさに「上客」です。客席が埋まらなければ興行は成り立たず、芸人やスタッフの生活を直接支えているのは、間違いなくこの「払うファン」です。この層に女性が多いのであれば、興行的に女性ファンが極めて重要であることは論を俟ちません。
一方、YouTubeの視聴者は、広告収入や企業案件(タイアップ)を通じて、間接的に芸人の収益に貢献します。再生回数やチャンネル登録者数は芸人の「影響力」を示す指標となり、テレビやCMなど、より大きな仕事につながる可能性を秘めています。この層に男性が多いのであれば、芸人のキャリアの幅を広げる上で男性ファンの存在は不可欠です。
つまり、「ライブの女性ファン」と「ネットの男性ファン」は、どちらが優れているというわけではなく、それぞれが異なる形で芸人の活動を支えているのです。
まとめ:お笑い界を支える多様なファンたち
当初の「お笑いの中心は女性か?」という問いに立ち返ると、その答えは「半分正解で、半分間違い」でしょう。
ライブや劇場の熱気、そして直接的な収益という「興行」の側面を見れば、女性ファンが中心的な役割を担っているのは事実です。しかし、ネットでの影響力の拡大や、芸人自身の「純粋な面白さで評価されたい」という欲求を満たす上では、男性ファンの存在が極めて大きいこともまた事実です。
かつてのようにテレビや劇場だけが芸人の活躍の場だった時代とは異なり、現代のお笑い界は、熱量の高い「現場」と、裾野の広い「ネット」が相互に影響し合う、より複雑な生態系によって成り立っています。その生態系を支えているのは、女性だけでも男性だけでもなく、多様な形で芸人を応援する全てのファンなのであると言えるでしょう。